交通事故と損害の間に因果関係があることは前提として,被害者の「素因」が損害の拡大に寄与していると考えられる場合に,「損害の公平な分担」の観点から,加害者の負うべき賠償責任を合理的な範囲に限定する場合があります。
これが「素因減額」と呼ばれるものであり,「素因」には,一般的に「身体的素因」と「心因的素因」とがあるとされています。
最判平成4年6月25日(民集46巻4号400頁)は,「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,被害者の当該疾患をしんしゃくすることができる」と述べています。
この判決は,交通事故より前に一酸化炭素中毒に罹患していた被害者が,交通事故によって一酸化炭素中毒による症状が悪化し死亡したというケースについて,「損害の公平な分担」の観点から50%の素因減額を認めたものです。
最判平成8年10月29日(民集50巻9号2474頁)は,「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患に当たらない場合には,特段の事情の存しないかぎり,被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない」と述べています。
これらの判例から分かることは,身体的素因による素因減額は,かかる身体的素因が「疾患」に当たる場合には認められ,「身体的特徴」に過ぎない場合には否定されるということです。
※「民集」は,最高裁判所民事判例集の略です。民集に登載された判例は,実務上極めて重要な意味を持っています。
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